ぶどうの降る日/佐藤伊織
 
「ねぇ、さっきから何見てるの?」

「…、ああ…、ぶどうが降ってくるのを見ているんだ。」

太陽を背景に、数万のぶどうが、ゆっくりと、ゆっくりと、地面に降り注いでいる。

「キラキラしてて奇麗ね。」

ぶどうのひとつぶひとつぶが光を反射して、まるで視界が一面、夕暮れの川面のように光り輝いている。

その光が明雄の顔や身体を照らし、そして深い陰影を作り出す。

「今は、昼なんだよな?」

「そうね、あんなにお日様が照っているんですもの。」



「太陽が沈まなくなるなんてな。」

明雄は景子に差し出されたお茶を一口飲んだ。
景子は窓硝子をそっと触った。

「どこから、降ってくるんでしょうね、あの」

「あの人たちは…。」

太陽を背景に、数万のぶどうが、ゆっくりと、ゆっくりと、地面に降り注いでいる。



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