【批評祭参加作品】石原吉郎の可能性 ー石原吉郎試論ー/石川敬大
た
はじめの牢には
錠があった
つぎの牢には
人があった
さいごの牢は
人も錠も
あげくの果ては
格子もなく
風と空とが
自由に吹きぬけた
(詩集『足利』より「牢」全行)
また、後期詩篇については鮎川がこんなことも発言している。「体験と無関係でも美と感ずるような世界をつくりたかったんじゃないかな」と。石原吉郎はシベリア抑留という特異な体験をしたのかもしれない。しかしながら、彼が詩人となりおおせた理由は、その特異な体験とは距離を置いて相対化した意識を言語化し整えたことにあるのだし、彼の詩が成立するのもそこにこそ根拠がある
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