過去のこと/はるな
ような雨が。
雨が降らなかったから、髪型を変えた。相手をとりかえたり、洋服を変えた。そうしたら、雨が降ったのだ。ものごとは、思い通りになるけれど、望んだときに望んだようになるとは限らない。わかっている。
いくつかの物事を望みながら、いくつもの物事を失うだろう。失いたくないと思っていても。失うわけにはいかなくても。だって、わたしのものを失えるのはわたし自身しかいないのだから。
遠のいていくのは、悪いことではない。すこしかなしくなったりもするけれど、悪いことではない。過去になってはじめて、そのものを手に入れられるのだ。だからはやく過去になればいいと思うのだ。
誕生日が好きなのは、そのためだ。わかりやすいさかいめ。ひとつずつ過去になっていくものもの。そして、わたしはわたしを手に入れる。過去のものとして。戻らないものとして。失ったもののひとつとして。
むきだしになった首筋も、そのもののうちのひとつだ。ベッドでは男がやすらかな寝息を立てている。物事がきちんと失われていく夜だ。二本たばこを吸った。
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