ガス・ストーブのこと/はるな
 
い靴をパニエのしたで履きくずしながら、姉に宿った子どものことを考えていた。正確に言えばまだ子どもですらない受精卵―数日後には流されてしまうそれーについて考えていた。本音か世辞かの賞賛のむこうで湿る母の眼にみつめられながら。
子宮はものを考えるだろうか―宿しながら流し、しかし宿さぬ子宮が華やかに飾られる。母は知らない。姉の堕胎、わたしの未熟な生殖器。それが残酷なことだとは思わない。ただ、それは、それだけのことなのだ。それ以上の意味を、探し始めればとたんに、わたしたちは生きていることすら難しくなる。いまよりもずっと。

引菓子のパンフレットは分厚く、上質の紙がつかわれていて、なんだかすごく疲れてしまう。どうしてこんなに疲れてしまうんだろう。

「お腹に赤ちゃんがいると思うと、うれしいものだね」

いくつも紹介されるジュエリー。いくつも、いくつも。
反芻していた。あの言葉は、今までわたしが知っている言葉のなかで、どれよりも美しく、かなしい言葉だ。救いようのない言葉だ。絶望は、美しく透ける紙に包まれている。


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