数人の客が降り、女はいちばん最後に――しかしいちばんきっぱりした足どりで――ホームに降りた。ふりむいて、さあ、というように私を見る。 私は一歩も動けなかった。 キオスクに、袋に入った冷凍みかんが並んでいるのが見えた。公衆電話が見え、銀色の大きなごみ箱も見えたけれど、私は一歩も動けなかった。 (「あげは蝶」) [次のページ] 前 次 グループ"第4回批評祭参加作品" 編 削 Point(1)