【批評祭遅刻作品】殺し、やわらかい雨の中で(山茶花オクリ讃1)/渡邉建志
シャッターを大写しにした横窓を、指でなぞりました。
「テ・ナ・ン・ト・募・集・中」ああ、そうか、この構え。ここは昔、店を開いて
たんだな。誰も住んでいないならシャッターは下ろさないほうがいいのに。何屋だ
ったか、その生活した足跡も、一目で分かるのだから。本心のところ、ハミルには
どうでもいいことでした。
向き変えて前面、フロントガラスの彼方には星ひとつありません。その手前に輪
転しているボール塔をぼんやりと眺めることにしました。くる、くる、くる、まっ
たく美しすぎる光球です。あそこには大勢の、こっちに帰ってこれないひとたちが
住んでいるんだ。ハミルはなにかを思い出すように謂い零し
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