【批評祭遅刻作品】殺し、やわらかい雨の中で(山茶花オクリ讃1)/渡邉建志
 
こん。
どこに行くんだろう。ハミルは謂います。どこに行くってのさ。ハミルのおかあは
ホーム端の白線で立ち止まろうとしました。案の定、こけたのです。どこ!ハミル
のおかあの図体が頭から滑降します。二、三度線路に跳ねて、ドシャリ、ハミルの
おかあはしゃくれた顎を擦り剥きました。
「電車が通過いたします」

(電車が通過いたします)

「おい、ハミル、おいったら」ムスカの声が聞こえたような気がしました。
「あん?」ハミルはぼんやりとボール塔を眺めています。隣の席を見遣ると、相変
わらずムスカはじいっとスピーカーに耳を傾けたままです。ハミルはボール塔のほ
うに向き直して、それから口
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   グループ"フレージストのための音楽"
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