主語からの呪文/渡邉建志
 
その主語はほんとうに主語なのか。

武満徹の文章に、左翼の歌が嫌いだというものがあった。「われわれ」が、本当の痛みを伴っていない、というようなないようだったと思う。反戦争の歌であれば、本人の痛みを伴った歌でなければ、永遠に歌い継がれない。個体性。一方、武満の嫌った歌たちの「われわれ」は、肩を組んで、そのときは気分も高揚するだろうけれど、いつか古びるのだ。

ビートルズが古びないのは、彼らが主語のない恋愛を歌わずに主語のある恋愛や、思想そのものを歌ったからだと思う。だから、個体性の軽い「love me do」には古さを感じるけれど、LSD体験をそのまま語ってしまった「she said she
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