■批評祭参加作品■ 「 無言の遺書 」  /服部 剛
 
箱に小銭を投げ入れ、両手を合わせる。本堂を出て、小
さい観音像を濡れたたわしで洗い、桶で掬った水を流す。除夜の鐘
を一回鳴らした後、紙コップに入った甘酒を手にテント内の長椅子
に腰を下ろす。こうして毎年同じことをして、私の一年は始まる。
紙コップから湯気を昇らせる甘酒を飲みながら、今年も当たり前の
ように年を越したことを何気なく感謝しながら、ふいに浮かんだの
は、去年世を去ったある若き詩人のことであった。 

二  

 人それぞれの人生の在り方を想う時、短距離走者と長距離走者の
二つに分けられると言えよう。ある者は、流れ星の閃光を残すよう
に短い人生を終え、ある者は杖をつ
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   グループ"第2回批評祭参加作品"
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