七月/非在の虹
 
荒川の上流の
七月の川風は生まれたてで
すばしこくてむじゃきなのだ
だからきみもぼくも
生まれたての赤ン坊で
何かを語るのではなく
石をひろったり
川へジャブジャブ入ったり
船の上で寝ころがったのだ
だがたまに大人になって
料理屋にあがり
鮎の塩焼きでビールを飲んでみる
おたがいに「見晴らしがいい」と語り合う

渓流に吹く風は
森と崖をながれ
そしてまちにもめぐっていた
みやげもの屋をのぞいていると
ぼくたちは子どもなのか大人なのか
わからなくなっていた
そのとき、からだのなかで風が吹き消すものを
ぼくは感じた
ぼくはあの土地の夏を忘れてしまった
風は二度とぼくに吹かないだろう
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