01:ふたりぼっち/chick
る必要がなく、広樹が有能的な意味で早朝出勤する必要がないからだ。そして広樹の恋人―私と同期の彩夏という女は、有能的な意味で早朝出勤をする。だから金曜日の夜、広樹はここに来てくれるのだ。
「ほら、俺は先に出るぞ」
一緒に出る気なんてさらさらないくせに。一人でさっさと準備を済ますのだ。
「なー」
不服そうに声をあげた。
広樹は着替え始めてから一度も振り向かなかった。私に背を向けたまま最後の着替え、背広を羽織った。
きっとこの男は鈍感に違いない。センター試験の国語をやらせたら、「小説」の設問でお門違いの選択肢を選ぶタイプだ。そのくせ「説明文」の設問は全問正解しちゃうような、私のいちば
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