小詩集「マルメロジャムをもう一瓶」/佐々宝砂
たしは確かに少しばかり懐かしんでいる
あたしのあのキッチンを
でもあたしのあのキッチンと
母たちの専制国家と
どこが違っていたというのだろう
ささやかな改良は反逆ではなかった
服従を若干耐えやすくしたに過ぎなかった
今あたしのシステム・キッチンは
電子レンジに冷蔵庫はもちろんのこと
皿洗い機に食器乾燥機まで完備していて
したい放題に手抜きができる
まるきり料理したくないと言うなら
コンビニだのファミレスだのファーストフード・ショップだのが
あたしのために料理を作ってさえくれる
しかし
コンビニの弁当をつくっているのは
何を隠そうあたしたちだし
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