小詩集「マルメロジャムをもう一瓶」/佐々宝砂
た
母の世界でないとしたら女たちの専制国家で
裏木戸を開けて入ってくる女たちは
ラジオが語らない世界の密かな消息を伝えあっていた
でも 懐かしんでるわけじゃないので誤解しないでもらいたい
燻る煙もムカデもきんぎょや薬種店のウチワも女たちの伝言ゲームも
あたしはまるっきり好きではなかったのだ
だからあたしは飛び出した
ラジオが語っていた世界へ
あたしが夢みたものは夢幻でなく具体的に存在していた
煙にむせることがないガスレンジ
油汚れがこびりついたりしないステンレスの流し
あたし自身の権限でどうにでもなる小さな世界
便利で近代的なあたしのキッチン
あたし
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