小詩集「マルメロジャムをもう一瓶」/佐々宝砂
しはもうジーンズを履かない
あのときから
ジーンズは何かの象徴になってしまった
あたしはジーンズが好きだった
単なる青いジーンズが好きだった
何の象徴でもないジーンズが好きだった
[ソウル・キッチン]
あのキッチンはひどく狭かった
ガスレンジは小さなのがひとつあるきりで
電子レンジはもちろん電気釜さえない
流しは鍋ひとつ洗うにも苦労するほどせせこましく
丸ザルに入れた皿や湯飲みは床に置くしかなく
冷蔵庫は氷も作れないオンボロだった
それでも
あたしにとってはすばらしく近代的なキッチンだったと
いまどき誰に言えば信じてもらえるだろう
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