小詩集「マルメロジャムをもう一瓶」/佐々宝砂
独特な省略気味の文字で
もちろんそれはアジビラのためのもので
あたしはそういうのを書くのが
ちょっとうまかったものだ
しかしだからと言って今はもう何にもならない
ワープロの方が便利だしきれいなのでしかたない
町内会用のチラシを書くのにさえ役立たず
あたしの技能は持て余されている
でも今日は少しばかりヒマな日曜日で
少しばかりセンチメンタルな気分なので
脂じみた鉄筆を握って
黄ばみはじめたロウ紙に
がりがりと馴染みの文字をひっかいてみた
そうしたら背後から見ていた娘が言うのだ
おかあさんそれ本気なの?
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