小詩集「マルメロジャムをもう一瓶」/佐々宝砂
 


飢えているという自覚は常にあった
でもあたしは何に飢えていたというのか
あたしの何が飢えていたというのか
名付けられていないものが
名付けられていないものに飢えていた
名付けないでいる限り
それはあたしにとって神聖なものであり続けた

でもとりあえずあたしは
あたしの子どもを名付けなくちゃならなくて
ふた晩けんめいに考えて考えて
あたしにとって五番目に重要だった名前をつけたが
(一番はジョージ、次がジョン、その次がリンゴで、四番はポール)
名付けられたばかりのその生き物は
仔猫よりも弱くただ泣きわめくばかりで
須可捨焉乎(すてっちまおか)と思ったことも一度な
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