小詩集「マルメロジャムをもう一瓶」/佐々宝砂
[バリケードのこっち側]
その前日
あたしは工場で残業した
まんまるいちんち段ボールの箱と格闘して
それでもまだ働けとベルが鳴った
自転車をこいで家に帰ると
戦いは明日だと言うから
あたしはお米を研いだ
五合釜しかないのに一升炊けいや炊けるだけ炊けって
あたしの親が送ってくれた米なんだけど
ああでも
あたしのものはあなたのもの
あなたのものはみんなのもの
あたしのこぶしは弱すぎたので
世界を変えるには向かなかったし
バリケードへの通行手形を握ることさえできなかったけど
おにぎりを握るにはちょうどよかった
だからあたしは戦略会議を背中で聞きな
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