巨人/木屋 亞万
 
手ごろなプールがないと
汗でぼたぼた水溜りを作りながら
巨人は初夏に愚痴をこぼした

海なんてどうかねと
杖をお守りにしている老人は
巨人には見えているだろう河口を指差した

大きな足はどの動物も植物も
もちろん人間さえも踏みつけることなく
ゆっくりと海へと向かっていた

その年初めての夕立が降って
景色が雨に霞んでいき人は傘に姿を隠した
泡立った雨粒の大群が辺りをうねり歩いて

皆が傘を畳む頃には巨人は姿を消していた
空へ帰ったのだというものがいれば
海に消えていったのだというものもいる

巨人が最後に目撃された峠のバス停からは
大きな河口を見下ろすことができ
河口の先には深い海溝が暗い影を落としている

老人が申し訳なさそうに河口を訪れ
その年最後の夕立の降り続く中
海溝に大事な杖を投げ込んだ

雲に覆われた空の向こうで
夕日が赤く滲んでいた
水溜りは少し汗臭かった

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