ヘラクレスオオカブトムシ(百蟲譜5)/佐々宝砂
真冬の風に押されて入る
どこか樟脳くさい昆虫館は
暖房でひどく乾燥して。
こんな昆虫館には必ずいる。
この大物を忘れたら
昆虫少年たちが怒るものね。
確かにすばらしい虫だものね。
あまりに立派なツノと鎧だものね。
脱脂綿に刺しとめられた巨大な屍は
白茶けてはいるけど偉大な王者の風格だ。
私もかつては憧れたものだ。
だがおまえは外国のスターに過ぎない。
私はおまえと遊ばなかった。
おまえは私の友人ではないのだ。
(未完詩集『百蟲譜』より)
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