キリギリス(百蟲譜8仮題)/佐々宝砂
 
闇が鳴いている。
ねっとりと濃厚な闇が。
手をひたせば
指先を黒く染めそうな闇が。

美しい声ではない。
金属的な声だ。
こすりあげる声だ。
痛い声だ。

闇が鳴いている。
明確な対象と目的をもって
すなわち同種の雌を求めて
闇が鳴いている。

おのれの求めるものが何か知らぬ
私の目前で。




(未完詩集『百蟲譜』より)

拙詩「キリギリス」において、私は非常に重要な間違いを犯しておりました。「キリギリス」に描かれている虫はキリギリスじゃあないのです。ごく最近気付きました。キリギリスの姿形は知っています。今も庭にいて、ギース、チョンと鳴いています。
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