トックリバチ(百蟲譜12)/佐々宝砂
 
窓辺にトックリバチが巣をつくった。
なめらかな曲線を持っていて、
微妙な色彩のだんだらで、
それは見事な造型だった。

だから毎日眺めていたのだけれど、
いつしか忘れてしまった。
役立つわけでなし、
見慣れてしまえばつまらないものだ。

ある日のこと窓を開けると、
ぽとりと巣が落ちてきた。
それは打ち捨てられていた。

もうトックリバチの役にさえ立たない、
その半ば腐ったトックリは、
それでもやはり美しかった。


(未完詩集「百蟲譜」より)

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