アゲハ(百蟲譜22)/佐々宝砂
 
アゲハは真上に飛び立つ。
目的があるみたいに
だけど少しも慌てず鷹揚に
まっすぐに。

あかるい春の日
かわいた地面に
ゆらゆらと落ちている
アゲハの影。

高く舞い上がれば
薄れて消えてしまう影。
それは私の似姿かもしれない。

影があることも知らず
それを私が見ていることも知らず
アゲハは飛ぶ。


(未完詩集「百蟲譜」より)

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