ミンミンゼミ(百蟲譜30)/佐々宝砂
 
早稲田にも
青山にもなれなかった
予備校の街で
私はその年の夏を過ごした。

現役生のフリしたまま
講義を受けて
教室を出ると
ミンミンゼミの大合唱。

ミンミンゼミは
ミンミンと鳴くから
ミンミンゼミだ。

しかしその年の夏
私は何者でもなかった。
鳴き声さえも持っていなかった。



(未完詩集『百蟲譜』より)
   グループ"百蟲譜"
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