アブラゼミ(百蟲譜29)/
佐々宝砂
そのひとが来ないことは
わかっていたけれど
約束からもう一年過ぎてることも
わかっていたけれど
盛大なアブラゼミの合唱の下
私は待っていた
夕暮れがきても
まだ蝉は鳴きやまず
私は待っていた
アブラゼミの雌のように
押し黙って
雄のなきさけぶ声を
無視するでなく応えるでなく
聴きながら
(未完詩集『百蟲譜』より)
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