ヒグラシ(百蟲譜38)/佐々宝砂
 
夏盛りの真昼の山奥で
輪唱するのをよく聴いた
山奥で暮らしたことのないあのひとに
そう言っても信じてもらえないかもしれないけど

夕暮れどきに街中で鳴く
ヒグラシはあまりにものがなしいけど
たいてい輪唱してはいないから
一匹だけなんだなと思うと余計にものがなしいけど

ひらめく木漏れ日の下で
あかるく調和するヒグラシの輪唱を
あのひとに聴かせたい

かなかなの「かな」は
かなしいの「かな」じゃないんだって
あのひとが思ってくれるかわからないけど



(未完詩集『百蟲譜』より)
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