妻とひと日を・・・・・/生田 稔
 
りたるところ妻の生く花かわゆらし盛夏燃ゆる日

半年絵を習いてむらむらとして妻の姿を描きにけり

絵といい詩歌というそは神(テオ)顕(フアニア)なりと美学の書には論ぜり

一瞬の一着に全てを賭け赤いシャツの走者微笑む

青空に蝉鳴きわたり風の吹く坂本のさか立秋の日

夕陽さし孤舟漂い近江富士家路をたどる車の窓

葉桜に黄ばの混じりて風が吹く疎水の端にやすみけり

大木に鴉一羽鳴きにけり大津京址九月朔日

秋雨のしのつく宵の雨音と男孫誕生のニュースをきく

飯焦げる匂いつたいく夕暮れの窓を放てど風は吹かずも

秋の夕しのぶもぢずり我妻は遠き源家の子孫にあり

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