小詩集  日は出づ  暗き予兆のまま/杉菜 晃
 
開く
伸びをする
猫をよけて

開けるのは
取り取りの屋根
霞むビル群
ビルのあはひに揺れる



◇青林檎

背伸びしても
少年の手に
届かなかつた
青林檎

いま
都市の店先に並んでゐる
青い林檎は
青いまま

青春は
実らないまま


◇草笛

草笛を吹く
いくら息んでも
草の音色は
四囲の
草原に吸ひ取られ
山彦には
ならない


◇風景

陸地を
鴨の親子が
歩めば
稚児の足が
追ひかける
鴨の親子が
よちよち
稚児の足が
よちよち

路上の雀が
振り返る


◇樹の胡桃


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