小詩集 日は出づ 暗き予兆のまま/杉菜 晃
樹の胡桃は
頭を寄せ合って
あたたかい
そんな
まとまりが
幾つもいくつも
ぶら下がつてゐるので
単独者は
目のやり場に
困つてしまふ
◇雨
雨の墓
コートの婦人が
ひそかに
十字を切つてゐる
雨に
花束は
生き生きとして
◇光の布団
ススキ野
夜になると
一面
淡い光の
布団となる
◇心の沼
雪は
心の沼の
暗がりへ
定めなく
沈んでいく
降つても
降つても
沈んでいく
◇冬
木枯らし
陸地を吹き抜け
海に出て
渚の鮫に
喰はれて
果てる
◇焚火
落葉を焚く
背中に
夕日を
重ね着して
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