小詩集  日は出づ  暗き予兆のまま/杉菜 晃
 


五月の風を切つて
空いた電車が
疾走する
電車内では
陽と風が
目まぐるしく踊る
赤子が発狂した


◇孔雀

人界に現れた孔雀が
ゆつたりと歩みを進める
貴婦人のやうに澄まし込んで

あれでオスといふのだから
分からなくなる


◇夏馬

草原を
夏馬は駆けてゆく
病み上がりのやうに
ほつそりとして


◇魚

水のほとり
木上のカワセミが
とろつとする

岩陰から岩陰へ
魚が
素早く
逃げ隠れる

きらめく
残像


◇蟹

真昼の砂浜
砂上に
ひとつの
物証のごとく

激昂する
蟹と影
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