俺と鳥/緑茶塵
届けるのを諦めた時だと思う。
だから傘も鳥かごを覆うビニールも探さなかった。タバコとバス代だけもって出かけた。
マンションを出ると鳥を預けに来たときの姪の顔を思い出す。大事なペットなのだから、判れて寂しそうにする物なのじゃないかと思うが、なぜか嬉しそうだった。
「ありがとう、おじちゃん」
その感謝にも二日と答える事が出来なかったわけだが、とくに申し訳ないとか鳥の更なる引取り先の事を考えたりはしなかった。ただちょっと、バスの隙間から晴れ間が見えたので、その事の方が気にはなった。
隣に乗り込んできた壮年の老人が鳥をじっと見ていた。人の良さそうな老人なので事情を話して引き取ってもらおう
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