小田急線で行方不明/吉田ぐんじょう
 
二ヶ月ぶりに小田急線に乗った
眼がよく見えないと思ったら
乗客が全員保護色を着用している為
座席に溶け込んでしまっているのだった
水気の多い黒眼だけが幾つも
こちらを向いてぎろぎろ動いている

停車から発車までの間は
じっと車窓の外を眺めることにした
下北沢駅前のラブホテル
登戸駅のでかい居酒屋
成城学園前駅の近代的なプラットフォーム
流れてゆく幾つもの病院
入った事も無いファッションビルや
そんなものものが
車窓にべたりと貼り付いて
すぐに剥がれてゆく
そうだった
こんなところだったな
こんなところに五年間も住んだんだな
一々確認してから文庫本を開く

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