小田急線で行方不明/吉田ぐんじょう
たたんたたん
と云う振動がお尻からつま先までを揺らす
それすらどこか懐かしい感じがして
何故か涙ぐんだりしている
開いたドアから流れ込むにおいは
紛うかたなき小田急のにおいである
ごうと音がして
電車は地下を抜けた
その明るさに喚起されたのか
五年分の記憶が
胸の内側からずうずうと
何時までも湧き出て
止まらなくなってしまった
それからわたしは
千八百二十五日分の旅に出てしまったのだろうか
そしてまだ帰れずにいるのだろうか
三十分後に着いた筈の目的地に
降りたのか降りなかったのか
何をしたのかしなかったのか
まるで思い出せないままなのである
そうして気付けば
何時か来たような気のする
ごみごみした裏路地に立ちつくしている
見上げると
からの牛乳パックみたいな団地が
そらへ向かってぽかっと口をあいていた
そのままふらふら歩き出すと
保護色の人に突き飛ばされ
そのままわたしは
何処か彼方へ飛んでしまいました
誰か探してください
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