聖夜の奇跡/逢坂桜
 
いた。

  振り返りたくない、思い出したくもない。
  けれど、たったひとつ、忘れられないことがある。

  クリスマスの頃、眼が覚めると、あいつがテレビをつけていた。
  若い女や男が、狂ったように「クリスマス」を連発していた。
  胸糞悪くて、あいつにも触れたくなくて、不貞寝を決め込んだ。
  だから、あいつは起きたと気づかなかったのだろう。
  低く、聴こえた。
  「・・・クリスマスか」
  それは、かすかな、本当に小さな声だった。
  とてもあたたかい声だった。
  とてもいとおしむ声だった。
  
  何人も地獄に突き落とすだけのあの男が。
  何度殺
[次のページ]
戻る   Point(5)