聖夜の奇跡/逢坂桜
いた。
振り返りたくない、思い出したくもない。
けれど、たったひとつ、忘れられないことがある。
クリスマスの頃、眼が覚めると、あいつがテレビをつけていた。
若い女や男が、狂ったように「クリスマス」を連発していた。
胸糞悪くて、あいつにも触れたくなくて、不貞寝を決め込んだ。
だから、あいつは起きたと気づかなかったのだろう。
低く、聴こえた。
「・・・クリスマスか」
それは、かすかな、本当に小さな声だった。
とてもあたたかい声だった。
とてもいとおしむ声だった。
何人も地獄に突き落とすだけのあの男が。
何度殺
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