風を忘れた君へ (Ode to a nerd)/月夜野
 
しさを


 君がこの世に生まれた朝
 それは輝く羽毛で額をくすぐり
 公園の砂場で君が見上げた青空を
 行雲とともに渡っていたものだ
 またそれは
 部活帰りの君の上気した頬を
 颪(おろし)となって鞭打ったもの
 あるいは夏の川べりで
 夢中になったあの娘の唇を
 君より先に奪ったかもしれぬもの
 それら優しく荒々しく軽剽なるものの感触を
 君は長いこと忘れていはしまいか


 薄闇の中に立ち上がる
 電脳の異界に閉じこもる君の
 いじらしい復讐は
 痛手の果てに行き着いた
 ささやかな抵抗であったかもしれない
 けれども、いま一度だけ
 思
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