わるい夢/渦巻二三五
そばへ来てかがみ込む。いやだ。わたしを連れていこうとしている。
喉の奥から息を押し上げる。くちびるを内側から裂き 息を吐いた。そのとき、聞こえた。わたしの声。もう一度。すぐ近くに彼の顔があった。わたしたちは見つめ合う。まぶたを隔てて。
そうか。まぶたを 開けばいいのか!
声。わたしの声。呼んでいる。
「夢を見たの?」
これはわたしの声ではない。彼が そこにいた。
湿った部屋の匂い。毛布のなかの体温。壁の染み。わたしは ここにいる。
大きく息を吐く。何度も。心臓が運動を始める。
「どんな夢?」
思い出そうとする。一つの断片に小さな鈎があって その鈎が次の断片を
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