わるい夢/渦巻二三五
 
片を引き寄せ そうして瞬時にすべてを回想した。が、言葉にすることはできない。
 「こわい」
 とだけ発音する。くちびるが乾いている。苦しくはない。
 「だいじょうぶ、夢だから」
 そうだろうか。
 「起きてしまえばこわくないよ」
 そう。起きてしまえば過去だ。さっきまでおびえていた両手に 今は安堵している。
 ほんとうにそうだろうか。

 ――夢で一番おそろしいのは、何度も目覚める夢。

 わたしはまぶたを開いたまま もう二度と目覚めなかった。
 あたたかな手だった。





初出:二〇〇〇年四月二七日 @nifty 現代詩フォーラム
          
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