蒼茫のとき?死の風景/前田ふむふむ
その粒子が、湿度計が振り切り、
淀んだ空気が充ちる墓碑の上に降りそそぐ。
墓碑の上には厳かに、名前が刻まれる。
巫女の扇が静かにはずされて、懐かしい顔を見せる。
見開かれたいのちの繋がり――。
甦る暖かい血の流れ――。
二つの世界が同じ時間を歩きだす。
燦燦としたひかりの階段を、水仙が咲き誇る朝に、
ふたりが歩む。
わたしの躰から、わたしの眼から、思わず湧きだす、
赤い号哭が、地を這い、遠い空に響きわたり、
津波のような溢れる声が墓碑を覆うと、
死者は、徐に、墓碑の中にふたたび、隠れていく。
わたしは、大声をあげて、何度呼んでも、
黒い家の主人は、二度と現れること
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