蒼茫のとき?死の風景/前田ふむふむ
 
、生きた汗の、生ぬるい体臭が恋しい、
死者の夜を暖める、モノクロームの写真が、
わたしの掌に置かれている。
その手のなかでもえる、甘美なときの翼が
錯綜する夢を、意識の皮相に浮かべる。


     3

夜の渇き。絶望。そして偽りの昂揚。
砂塵の海に、打ち寄せる闇の高まり。
暮れる静脈の血液の鼓動を抱く、
満ちたりた夜が失踪する。
  
沈んだ意識を立ち上げて、
わたしは、歩幅を強く、ひきだす。
モノクロームの写真にむかって。

顔を扇で覆う巫女のまえの、みずたまりには、
黒い斑糲岩の墓碑が、寂しく佇み、
時折、強い風に揺れて、いく度も砕け散る。
墓碑銘
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