ゴミのない国で リターンズ/佐々宝砂
捨てたつもりはなかったのです
だってこの国にゴミはないのですから
ええ だから 捨てたつもりは全然なかったのです
あのひとの影を いえ あのひとへの愛を
私はあのひとが残していった家にきちんとしまっておきました
あのひとの家は私たちがかつて住んでいたあの暗い国でなら
きっと瓦礫とか廃墟とか呼ばれたものでできていましたが
私はあのひとの家が好きでした
背をあずけると脆くなったコンクリ壁が崩れて私の髪を白くしました
その埃っぽさがどうしてもあのひとに似ていました
私は何時間でもあのひとの家にすわっていました
ときどき風が吹くとどこからか破れた雑誌が飛ばされてきて
私の頬に貼
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