ピラニア/「Y」
 
綺麗だからかな」
「それもあるね。」
 僕は父とそんな言葉を交わした。だが実際は、博物館の昆虫たちは、必ずしも僕の心を愉しませてくれたというわけではなかった。陳列ケースに並べられた昆虫たちの数が多いほど、羽の色や甲殻の形が美しいほど、それらは僕を、何か遠いものでも見ているかのような気分にさせた。その不可思議な気分が何であるのかをもっと知りたくて、僕は、長いことあの場所にとどまっていたのだと思う。だが、その気分は靄のように掴み所がなく、僕は目の前に広がっているいびつな光景を眺めながら、館内をうろつき回っていたのだ。
 その年は、夏休みが終わっても暑い日が続いた。地元の運動施設では屋外プールの閉
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