ピラニア/「Y」
 
 全然憶えてない」
「そうか。まあ、憶えているわけはないな。まだお前が言葉を喋れなかった頃のことだから」
 道路は直線に入っていた。左手に海岸線が続いていた。車は相変わらずすくなかった。
「だけど、あの博物館は、どうも今ひとつだったな」
 父が呟くように言った。「建物が古いせいか、標本も、どことなく埃を被っている感じでね」
「へえ、そうなのか」
「まあ、お前が行きたいのなら、行ってもいいけど」
 そう言いながら、父は僕の方を向いた。
 僕は父に、昆虫博物館に連れて行ってくれるように頼んだ。
 博物館は、父が言うようにひどく老朽化していた。最初は白かったのだろう外壁の色は、今では薄
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