ナイフを買ったよ、白い柄のナイフを買ったんだ。/虹村 凌
 
落ちていく俺は、そう、酷く醜かった。
苦しさも痛さも、共感出来ない事を知った。
共感など在りえないのだと知った。
人間は孤独なのだと知った。
俺の友人である恋人を裏切る君は、とても美しく見えたが、
それは嘘だった。…勿論、要因は俺にもあるけれど。
アトピーが酷かった頃、毎朝を迎える事が何より苦痛だった頃、
俺は、俺の心は誰よりも醜く、誰よりも純粋だった。
全ての人間を憎み、たった一人だけを愛する事が出来た。
その愛は狂信に近かった。
恋と愛の違いを知った。
初めて、そいつの為に死ねないと思った。
そして矢張り、そんな愛は、長続きしなかった。
でも、感謝の気持ちを捨てる事は
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