薬理記録 10/19・20/六崎杏介
 
、送電塔に釣られて窒息している。秋の虫は大合掌しているのか。
聞こえ無い歌は微かに、止む事をしない。赤い約束を緑青が蝕む。

PM09:30
無音、単音。ピアノ弾きは茶色い染みの付いた包帯に頭蓋を預けていた。
例えば、世界が円錐であるとして、きっとブレスはその頂点から世界の壁面を揺らすのだと。
子供達、私に会いに来れなかった私の子供達が耳をぴったりと付けている、その壁面を。
無数の綻びが、空から糸を垂らしている。首を吊る道化の群れに、鉄砲百合が喚く。
此岸で燃え尽きた彼岸花は、何体の生命を火刑にしたか。星同様に、数える事は出来ない。
妊婦の足が、ルビー色に爛れてゆく。少女の胸が、
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