silent moon/いとう
 
手帳に書かれた僕の言葉を切り離して
僕の背中から差し出す

「これが証拠」
「証拠?」
「そう。私がいたことの証拠」

振り向くと
彼女はあたりまえのようにそこにいて
あの絶妙な笑顔を僕に見せてくれながら
「じゃあね。縁があったらね」と
いつのまにか止まっていたタクシーに乗りこんで
すぐに僕の目の前から消えていく
東京タワーに向かって彼女が消えていったあと
残っているのは
残されたのは
僕と
僕の手に握りしめられた
僕の言葉だけだった


時々僕の言葉を見ながら彼女を思い出す
あれから満月の夜になると彼女を探しに街へ出たけれど
予想どおり
再び会うこ
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