silent moon/いとう
 
つは生真面目な人なの?(笑)」
「とりあえずルールだからね(笑)」
「…バカよねぇ(笑)」

耳の不自由な人に電話をかけても意味がない
わかっていて冗談を言って
でも本当は
ちょっと悲しかった

始発間近の六本木はすでに明るくて
(彼女の服装からわかると思うけれど、それは夏に近い夜だった)
タクシーはまだ群れていて
「あのさ。まだ名前聞いてなかったよ」
「名前?」
「そう。あなたの名前」
彼女は手帳をのぞきこんでしばらく考えたあと
僕の目を見て微笑む
それはあの絶妙な笑顔ではなく
上目遣いに
口元だけほころばせて
僕に魔法をかけるみたいに
僕を見つめ続けて
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