silent moon/いとう
 
必要がないほどに

「私そろそろ帰る。お腹いっぱいだし」
「あと30分くらいで始発だよ?」
「うん。でも今日は帰る。タクシー使う」

「もう俺といるの飽きた?」

とりあえずこのくらいの冗談を言える仲にはなっていたけど
彼女はやはり何枚も上手で
「帰りたいの」と
あの絶妙な笑顔を見せてくれる
どうやら彼女は僕の弱点を見抜いたらしく
とても効果的にその笑顔を使ってくるので
僕は彼女に従わざるを得ない
弱みを見せた方が負けなのだ
そして僕は
出会ったときからすでに負けているのだ

「じゃあ、とりあえずナンパだから、電話番号教えてよ(笑)」
「…あなたって、じつは
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