*桜色の秋*/知風
めじゃなかったから
ねずみたちは困っていた
今年なった椎の実すべて
その中からねずみの赤子が生まれたのだ
広場は藪紫(やぶむらさき)の葉や時鳥草(ほととぎす)の花に包まれた
赤子たちでいっぱいになっていて
あちこちからみゅうみゅう、みゅうみゅうと
泣き声が聞こえていた
食べ物はなくなった、けれど口は増えた
今年の冬はみんなひもじい思いをするだろう
みんな、飢えて死ぬかもしれぬ
だから、ねずみたちは困っていた
けれど、それであかねずみが困っていたわけじゃない
お祭りの夜
月夜茸の篝火(かがりび)を先頭に
ねずみたちの長い長い
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