*桜色の秋*/知風
長い列が
川に向かって伸びていた
川面を滑る、一面の桜色
笹舟に乗せられた椎の実の赤子たちが
まるで桜色の燐光のように消えていくのを
みんなは静かに見送った
赤子らは春の山桜の花びらみたいに
さらさらと静かに闇に溶けていった
夜が明けて
からっぽになった橡の袴を片付けながら
あかねずみははたと気がついた
取った椎の実が六十八個
だけど橡の袴は六十九個
見れば、おかみさんが生んだ一番末の男の子
二日前に生まれて、まだ三回しか抱き上げてない
小豆みたいな赤子
縮笹(ちぢみざさ)の産着の中にも
枯葉の毛布の下にも
卵茸(たまごたけ)の揺籠の中にも
どこにもいない
あぁ、きっと間違えて
椎の実の赤子らと一緒に
川に流してしまったのだ
今頃きっとあの子も
山桜の花びらみたいに
川をするする流れ落ちているに違いない
それを知ったら、あいつ
やっぱり怒るかなぁ
だから、あかねずみは困っていたのである
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