*桜色の秋*/知風
 
たわけじゃない
代わりに椎の実が六十八個も取れたから

あかねずみはおろおろ困っていた

豊作の前祝だと、艶の良い椎の実をひとつ
硬い殻をちょっぺんからくるっとむいたら
中からころんと、桜色のまんまるが転げ出た

みょうみょう泣くそれは、小さなねずみの子だった
ひげも毛もまだ生えそろわない、小豆みたいな赤子が
次の実も次の実も、割れば割るだけどんどん生まれた

けれど、それで困ったわけじゃない
あかねずみは橡(くぬぎ)の袴に真っ白い紅花襤褸菊(べにばなぼろぎく)の綿を敷くと
椎の実から生まれた赤子たちを一匹ずつ寝かせた
おかみさんから生まれた赤子たちと同
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