独学の数学者また/佐々宝砂
もう踏み固められた道であると知る。自分がもう孤独じゃない、と知ることは嬉しいだろう。自分の好きな科学をこれからは好きに勉強できるのだ、と思うことも嬉しいだろう。だけど、壁を越えて魔法世界から科学世界にうつったいま、主人公の独自性は、彼がもっとも好きで得意としてきた「科学」ではなく、「魔法も使える」という点におかれることになる。主人公は、世界観だけでなく自分のアイデンティティーの見直しをも迫られることになるだろう。
この小説のメタファは、たとえば東洋と西洋の対立を描いたものとしても読める。一生懸命西洋のまねをしてようやく認められるようになったと思ったら、今度は東洋としての独自性を求められている
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